アルバニアでのLibreOffice Conference 2018に行ってきた話
今年の「LibreOffice Conference」は、2018年9月25日(火)-28日(金)にアルバニアの首都ティラナで開催されました。今年も参加してきましたので、思い出しながらレポートします。 この記事は「LibreOffice Advent Calendar 2018」の7日目です。昨日は安部さんによる「LibreOffice 6.2のCalcではSMALL/LARGE関数の順位引数に配列を使えるようになります」でした。
LibreOfficeコミュニティでは、年に1度、LibreOfficeプロジェクトに関わったり興味を持っている人々が世界中から集まって、情報交換や交流をするためにカンファレンスを開催しています。第1回目の2011年のパリから今年まですべてヨーロッパでの開催になっています。コミュニティメンバーは世界中にいますが、ヨーロッパに多いことが理由です。今年がアルバニアで開催されたのは、アルバニアコミュニティには若くて元気なメンバーが多いこと、ティラナ市役所ではLibreOfficeを始めとするオープンソースを全面的に利用している、といった理由がありそうです。メインのローカルスタッフ6名(7名だったかも)のうち5名が20代中ばまで、女性4名、男性2名という陣容でした。
カンファレンスについての記事は日経xTECHに掲載されています。また、こぼれ話的な小笠原さんの裏レポート、村上さんの簡単なレポートがあります。ということで、以下は感想と写真を中心に旅の話なども交えています。
アルバニアについて
アルバニアはヨーロッパでは東のほうに位置し、ギリシアの北、マケドニアの西、モンテネグロの南にあります。イタリアを靴に例えるとかかとの部分とアドリア海を挟んですぐ近くです。事前に調べたところ経済状況があまり良くないという話がありましたが、行ってみたら街は思ったより安全でいいところでした。晩御飯というかパーティの帰りに真夜中に歩いてましたが大丈夫そうでした。アルバニアにいる間、ずっと天気が良くて、昼間は暑いくらいの日もありました。昼と夜で気温の差が激しく、寒い日は夜は毛布が必要でした。
アルバニアに行くのはそこそこ大変でした。日本からの直行便はありません。可能な限り安い便を探したら、エティハド航空で行きはアブダビとローマ、帰りはアテネとアブダビでの乗換となりました。去年のカンファレンスはローマでしたので、フィウミチーノ空港で乗り換えるときに、去年ならここで空港の外に出たなあ、、と懐かしくなりました。
首都ティラナの空港は小さく、ティラナの街自体もコンパクトでした。私が普段使っているクレジットカードでキャッシングしようとしたところ出来ませんでした。アルバニアからは出来ないようにしているのかもしれません。とりあえず空港のボーダフォンショップでSIMをクレジットカードでゲットしたうえ、エアポートバスはユーロで支払いました。街は結構きれいですが、メンテされていない道とか建物が時々あるので油断は禁物です。クレジットカードが使えないことが多くて予想よりも現金が必要でしたが、ユーロで支払いができたり、街中にユーロからアルバニアレクへ両替できる店はありました。また食べ物や宿泊はとても安かったです。宿はD1 Hostelというところにしたのですが、ドミトリーだったこともあり、6泊で簡単な朝食付きで45ユーロ(約5700円)でした。
そもそも私がアルバニアという国のことを知ったのは、2016年にチェコのブルーノで開催されたLibreOffice Conferenceでした。Redhatのオフィスで行われたハックフェストで、アルバニアから来ていたAnxhelo(アンジェロ)と話した時に教えてもらいました。彼は今回のローカルスタッフの1人でもあります。その時は、まさか2年後にアルバニアに行くとは思いませんでした。
カンファレンスの内容
毎年ほぼ同じ構成ですが、火曜日はコミュニティ・ミーティング、水曜から金曜は3トラックに分かれてトークやミーティングが行われました。土曜日はローカルスタッフがガイドしてくれて街を歩きました。また、夜は火曜日はバーでのパーティ、水曜日はディナー、木曜日はバーでハックフェストが行われました。
プログラムの日付ごとのページに発表資料はリンクされていますので、内容に興味がある方はご覧ください。主に以下では感想をコメントします。
発表資料/プログラム
1日目:水曜日
水曜日の午前中は、ティラナ市長のお話や、TDFのBoard of Directors(ドキュメント財団のボード)やスタッフの紹介、この1年のプロジェクトの状況報告、LibreOfficeのサポートビジネスを展開しているCollabora Productivity(以下Collaboraと略)とCIBのスポンサーセッションなどがありました。
TDFとはThe Document Foundationの略称で、LibreOfficeコミュニティを法的に支えるためにコミュニティメンバによってドイツに設立された財団です。
ティラナ市長がニルヴァーナのTシャツ(そっち方面に疎いので小笠原さんに教えてもらうまで気が付かなかったです)を着て、オープンで自由であることの重要性の話をしていたように思います。単にコスト削減ではない強い思いがありそうでした。私が英語力弱いのでうまく聞き取れなかったです...。ティラナ市民の平均年齢が27歳という話にもびっくりしました(これも聞き間違いでなければ)。
水曜日の午後は19セションでした。Simon PhippsからはOSIの20周年ということで歴史を振り返る話がありました。もうオープンソースという言葉が出来て20年たつということですね。TDFのデザイン担当スタッフであるHeikoのデザインチームの話も聞きました。カラーパレットの改善や新しいDrawのスタイル、アイコンの変更点、MS Officeのリボンに近い操作ができるノートブックバーの状況などのお話でした。
Muhammet Karaからはトルコの導入事例の紹介がありました。今まで知らなかったのですが、トルコでもそれなりに使われているようです。Muhammetのインタビュービデオが先日公開されています。ちなみにTDF WikiにLibreOfficeを導入事例のページがありますがトルコもいくつか載っています。日本の事例は日本語のページに書いていますがこちらにも書いたほうがよいのかもと思いました。
台湾のBo-An Chenによる、LibreOfficeを利用している大学でのアンケート結果を分析している話もありました。台湾からはカンファレンスへの参加者が年々増えていて今年は5名でした。日本からの参加者は3名(小笠原さん、村上さん、私)で、人口比率からいくと日本からは少なすぎる気がします。村上さんのLibreOffice Onlineをロードバランサーを使ってスケールを試みた発表もありました。私も念の為に共同発表者としてクレジットしていたのですが、少し資料をレビューしただけでした。発表後に聞いてくれてた人からHAProxyを使う方法があるようだとヒントになるコメントもいただきました。
2日目:木曜日
木曜日は2トラックとミーティングなどのトラックで30セッションがありました。朝一番で、LibreOfficeの技術的な意思決定を行う「Engineering Steering Committee」のミーティングがありました。通常は電話会議ですが、毎年カンファレンスの時だけ公開で顔をあわせて議論します。
他にも、台湾からのFranklin WengとEric Sunのトークが連続でありました。エリックは初めてお会いしましたが、組織で導入推進の役割をもっているそうで、カンファレンスでは珍しくユーザ寄りのImpressを使った発表のテクニックのお話でした。
小笠原さんからは日本のコミュニティの状況についての発表がありました。私は役割分担ということで別トラックのTDFのQAスタッフであるXisco FauliによるBugzillaについてのお話を聞きました。
CollaboraのManaging Director(以前Webで肩書見た時はVPだった気がするのですが)で、LibreOfficeコミュニティにおける技術的リーダーのMichael Meeksがマーケティングのトークをしていたのも意外でした。ビジネスの立場からマーケティングにエネルギーを割くことが多くなっているのかもしれません。Google Summer of Code(GSoC)というグーグルがスポンサーになってインターン生に奨学金を支払うプログラムがありますが、LibreOfficeは毎年参加しています。今年もその報告がありました。Markus Mohrhardがメンターを代表して司会していました。Markusは開発とQAの両方がわかっている珍しいエンジニアです。彼のブログはたまに更新されていて参考になります。2012年のベルリン以来久しぶりにお会いした気がしますが、元気そうでした。
私はCJKバグ(中国、日本、韓国の各言語に関連するバグ)についての発表しました。昨年の発表のアップデートです。直後にはイスラエルから参加しているLior KaplanによるRTL言語(右から左に書く言語)の状況で、同じような路線の話でした。そもそも私がCJKの話をするようになったのは、Lior(リオル)が2011年のパリのLibreOfficeカンファレンスでRTLバグについて話をしてて、面白いと思ったのがきっかけです。
3日目:金曜日
金曜日は2トラックで18セッション(クロージング含む)でした。トラックの片方は主に認定のワークショップやインタビューです。LibreOfficeではビジネスのエコシステムを支援するために、LibreOfficeに関するノウハウのある人を認定する仕組みを作っています。最初はLibreOfficeの開発に貢献している人たち向けた開発者の認定だけでしたが、今はLibreOfficeへの移行や、トレーニングといった認定もあります。私も移行専門家の認定を受けています。日本からは他に受ける人がいないので、今のところ唯一です。早く2人目が出て欲しいです。インタビューセッションに途中から参加してみましたが、アルバニアの2名が移行専門家(LibreOfficeへの移行)の認定のためのインタビューを受けていました。1人はローカルスタッフでもあり、ティラナ市役所の導入について発表もしていたシルビアだったように思います。以前に、私はリモートでインタビューを受けたことがありますが、その時は小笠原さんに通訳していただいたので理解できましたが、英語だけだとなかなかハードだと実感しました。
イタリアコミュニティのリーダーでTDFスタッフでもあるItalo Vignoliからはファンドレイジングを検討しているお話もありました。通常の寄付とは別に、テーマ別にお金を募ることも考えていきたいということでした。TDFではみなさんから安定して寄付を頂いていますが、よりお金があれば挑戦できることも増えます。ライトニングトークでは大勢の発表がありました。アメリカから初参加のCathy Crumbleyによるドキュメンテーションの話もありました。ジャケット着ていますし、雰囲気が違ったのでどこからかな?と思って聞いてみました。ちなみに、LibreOfficeコミュニティでは女性が少なめな点は課題だと思いますが、活躍している女性も結構います。TDFのBoard of Directors議長のマリーナや、TDFのスタッフでコミュニティの古参メンバーでもあるソフィー、CIBの開発者のカタリナ(そういえば今年はカタリナを見かけたなったです)、Membership Committeeメンバで今回のローカルスタッフでもあるヨナなどはパッと思い出しましたが、他にも大勢います。Cathyのカンファレンスについての記事も公開されています。
金曜の最後、LibreOfficeの誕生日をお祝いしてカンファレンスを締めくくりました。大きなケーキをカットして、みんな食べながら雑談して、三々五々帰っていきました。2010年9月末にOpenOffice.orgからフォークしてから8年。毎年この時期にカンファレンスを開催することを目指しているようで、いつもカンファレンスでお祝いしている記憶があります。その後、時間がある人たちとカフェ、レストラン、バー(みんな集まってるらしいと聞いて合流)と行ったので宿に戻ったのは日付が変わっていました。
カンファレンス翌日のシティツアー
カンファレンスでは翌日に街をめぐるツアーをしてくれることもあります。翌日の土曜日に街の南の方に集合して、午前中街歩きをしました。ローカルスタッフのRedon Skikuliが所々で説明してくれました。ピザ屋でランチして解散でした。
ベラトにも行きました
余談ですが、9/30(日)-10/1(月)の予定を入れていなかったので、南の方の街ベラトに1泊してきました。ベラト城を夕方にのんびり散歩しました。住んでいる人もいてお店などをやっています。坂を登るのでいい運動になりました。旧市街の古い町並みの中にある宿Ana’s Rest Houseに泊まりました。小さな街ですが、城の展望台や朝食時の宿のテラスからの雰囲気はよかったです。鉄道がないので、長距離バスで移動しました。
来年のLibreOffice Conferenceはスペインのアルメリアだそうです。スペインは行ったこともないですし楽しみです。