Shinji Enoki's blog

LibreOfficeの話題を中心にする予定です

TDFのBoard of Directorsって何?概要と選挙について

この記事はLibreOffice Advent Calendar 2021の2日目の記事です。LibreOfficeを支える非営利法人として、The Document Foundation(TDF)があり、その意思決定を行うBoard of Directors(BoD、取締役)の選挙が行われます。ということで、The Document Foundationのボードについて紹介してみます。

なお、私はBoDの選挙管理を行うMembership CommitteeのDeputies(副メンバ)ですが、この記事は個人的な立場のものです。誰かのレビューを受けていませんので勘違いなども混じっているかもしれません。

以前書いたThe Document Foundationの運営の仕組みについてのメモ も参照ください。

LibreOffice Conference 2019でのBoDメンバ紹介の様子
LibreOffice Conference 2019 アルメリア(スペイン)でのBoDメンバ紹介の様子。前回の選挙前なので以前のメンバ

TDFブログの選挙スケジュール https://blog.documentfoundation.org/wp-content/uploads/2021/11/BoD_election_infographic.jpg

TDFの概要と歴史

まず、ボード(BoD)の前に、TDFについて説明します。TDFは、LibreOfficeの開始と同時(2010年9月28日)に、OpenOffice.orgコミュニティからフォークをしたLibreOfficeコミュニティメンバによって任意団体として設立されました。2012年2月17日に、ドイツの法律に基づいて非営利法人化されています。オープンソースの活動は主にインターネット上で行うとはいえ、ある程度の規模になると契約行為や寄付控除など、法人格が必要になってくるためです。

LibreOfficeコミュニティは、どこかの会社が主導するものではなく、ボランティアだけでもありません。ボランティアとLibreOfficeのサポート企業、ユーザなどなどがあわさってLibreOfficeコミュニティを形成しています。

そしてTDFは、LibreOfficeコミュニティをサポートすることが目的です。縁の下の力持ちであって、主役とはいえません。LibreOfficeをリリースしたり(開発はサポートベンダやボランティアがしていてTDFはわずかです)、サーバなどのインフラを提供したり、商標を管理したり、認定制度を維持したり、寄付を集めたり、コミュニティを支えるために10名程度のスタッフ(チームと呼んでいます)を雇用しています。また、LibreOfficeだけでなく、古く時代遅れの独自文書形式を読み出すライブラリを整備する「Document Liberation Project」もホストしています。法律上の拠点としてはベルリンですが、オンライン上で活動しているのでリアルの事務所は持っていません。

LibreOfficeは自由なオフィススイートを作って、自由なソフトウェエアの世界を広げていく使命がありますがTDFのマニフェスト日本語訳)ではさらに、次の4つの価値観が掲げられています。「デジタルデバイドの解消」「母語でオフィススイートが使えるようにする」「オープンな文書形式や標準を利用する」「オープンで透明性のある開発プロセス」です。つまり、自由なソフトウエアを作ることに加え、3つの社会的価値を追求し、それをオープンに行うということです。

TDFを構成する3つのエンティティ

TDFは次の3つから構成されます。TDFの意思決定を行うBoard of Directors(BoD)、TDFのメンバーシップの管理を行うMembership Committee(MC)、 Board of Trustees(TDFのメンバー)です。また、制度上の地位はないのですがAdvisory Board(AB、諮問機関)もあります。

それらとは別に、LibreOfficeに関する技術的な意思決定や調整は、Engineering Steering Committee(ESC)で行います。

The Document Foundationのメンバーシップは実力主義をとっていて、6ヶ月以上継続的にTDFに関するコミュニティに貢献していることが条件です。毎年更新され、活動していなければメンバーから外れます。コミュニティをサポートするために自分たちで作って、自分たちで運営しているものだからだと思います。世間のNPOではお金を払えばメンバーになれるところもあり、それが悪いというわけでもありませんが、TDFでは違います。

Board of Directors(BoD)の活動

BoDの活動についてはあまり詳しくないのですが、理解できている範囲で紹介します。 TDFの運営に関する意思決定を行います。TDFの支出の承認や、スタッフの雇用、入札、商標管理、その他様々な意思決定をします。BoDが決めた方針に従ってスタッフなどが現場の判断はします。かなり多彩な意思決定をしているようで、忙しそうです。BoDメンバの中で担当わけもされていて、それぞれの担当分野で、監督的な作業や、議案を考えたりしています。実務作業はスタッフが担っていることが多いですが、議案をBoDメンバが書いてるケースもあります。公式な電話会議(Jitsi meetを利用)は2週間に1回です。それ以外にメーリングリストで議論したり投票も行っています。

コミュニティを支える役割である以上、BoDが決めたら終わりで済まないこともあります。コミュニティ内で意見が割れている場合、それを上手く調整する必要があります。最後はBoDの投票で押し切るにしても、コンセンサス形成が不可欠です。意見の対立があるのは健全ですし、どうしても意固地になって出ていく人がいてもしかたがないですが、大勢の人がそれなりに納得できるところに落とす必要があります。営利組織やトップダウン型のNPOと違って、ボトムアップのかなり民主的な構造ですので、大きな変化をする場合のコンセンサス形成が大切であり、大変になります。

BoDは現在のところ無報酬ですが(MCやAB、ESCも無報酬)、責任が重い上に、かなりの時間は取られるので大変そうです。BoDの中でもどれくらい頑張って活動するかや、担当する分野などによって大変さは全然違うと思います。ちなみに、LibreOfficeコミュニティのベテランが多く、BoDの活動に加えて、他のLibreOffice関連の活動をしているケースも多いです。

BoDについて、規約で決まっていること

Statutes of "The Document Foundation"の7条で、BoDに関して決められています。長いので簡単に要約してみます(割と難しめなので誤読しているかも)

  1. BoDは自然人7名で構成する。BoDの内部で会長と副会長を選任する
  2. 任期は2年で再任は可。BoDの選挙はMCが管理する。候補者数が多い場合、最大3名まで代理メンバも選ぶ。Meek法による単記移譲式投票制度
  3. 任期満了、死亡、辞任により職務は終了する。減った場合は、代理メンバ(Deputies)に置き換えられる。5名以下になった場合は新たに選挙をする
  4. BoDメンバは合理的な年次報酬を受け取ることができる。TDFの資金的に可能で、目標達成に影響がない場合ことが条件
  5. BoDはさらなる手続規則を制定できる
  6. 最初のBoDと会長、副会長、代理メンバは結成の一環として任命する

選挙制度

2年に1回選挙が行われます。単記移譲式投票制度という、死に票が少なくなる、少し複雑な仕組みで実施されます。投票者は最大7名10名(2021-12-16修正)まで候補者を選ぶことができて、それらを順番に並べます。ちなみにWebの投票システムを使います。

投票が確定する最低限の票を超えた得票は、余剰として他の候補者に分配される仕組みのようです。従って誰を選ぶかだけでなく、順番も重要です。 単記移譲式投票制度やそのミーク法について解説しているWebサイトを見かけたのですが、大枠の理解はできましたが、細かい部分は難しいです。なお、MCは票を数える仕事もあるのですが、手動ではなくてプログラムを動かして計算するようです。

今回の選挙について

今回は枠7名(代理Deputiesは最大3名)に対して、今回は10名が立候補しています。ということは当選しなくても代理にはなりそうです。現在BoDメンバで再度立候補している人が3名、立候補しなかった人が4名でした。議長であるLothar Becker、副議長Franklin Weng、Collabora ProductivityのトップであるMichael Meeks、Daniel Armando Rodriguezは立候補しませんでした。代理2名のうちNicolas Christenerは立候補していません。半分以上は入れ替わるので、少し雰囲気は変わるかもしれません。

board-discussメーリングリストで立候補する際に、自己紹介や理由などを書く文章をなげていますし、MC議長のマリーナから質問に対して、各候補者が回答しています。投票が開始されると、立候補時のメッセージは一覧リスト化されるので、追いやすくなります。

候補者への質問イベント

今回初めての企画として、候補者へ質問するイベントが3度開催されました。TDFの透明性を高めていくために何ができるか、ということでMCの中でマリーナを中心に新しく企画してみました。11/29(月)は日本のタイムゾーン向け開催(日本時間の20時−22時)で、小笠原さんが通訳してくれたので、私は日本語でいろいろ質問させてもらいました。候補者は半分くらい参加してくれていました。日本からも5−6名参加していました。2回目がヨーロッパのタイムゾーン向け、3回目がアメリカのタイムゾーン向けでした。

ヨーロッパタイムの2回目はYoutubeで公開されていました

youtu.be

おわりに

BoDの選挙は国政選挙とかのようなものではなくて、世話役みたいなところがあるので、自治会やマンションの管理組合の役員選挙みたいなものかもしれません。それらよりはたぶん大変ですし、候補者もかなりやる気ありますけど。

ここ何年かLibreOfficeの方向性やあり方の議論が対立することもあり、それらの調整の場になるBoDの重要性と難易度はあがっています。 BoDに誰が選ばれるにせよ、コミュニティで健全に議論してコンセンサスを取りながら、挑戦できる形にできるといいなと思っています。

BoDについて少しでも理解が深まったなら嬉しいです。 そして、もし興味が持てたら、継続的な貢献活動をして、TDFメンバーになっていただければと思います。